人工妊娠中絶の経験と性に対する考え方 中高年のセクシュアリティ調査から

遠藤 麻貴子(国立精神・神経医療研究センター), 荒木 乳根子, 金子 和子, 杉山 正子, 山中 京子, 石丸 径一郎, 今井 伸, 内田 洋介, 堀口 貞夫, 堀口 雅子, 村田 佳菜子
日本性科学会雑誌 41(1): 179-188, 2023.
人工妊娠中絶(以後,中絶)の経験は性と生殖といった生物学的な要素を持つが,心身の相互作用や性の持つ文化的・社会的側面による心理・社会的要素も大きい。中絶経験の心身への影響に関する研究は多いが,経験者の性に関する意識や性行動を調査した研究は存在しない。本研究は,日本性科学会セクシュアリティ研究会による中高年のセクシュアリティ調査の回答者の内,中絶経験者と未経験者の現在の健康,配偶者の有無,出産経験,性交頻度,性に関する考え方等を比較した。中絶経験は60代以上の回答者に多く見られ,経験者は未経験者と比較して有配偶者が少なく,出産経験が多かった。経験の有無による精神的健康および性交頻度に顕著な差はなかった。さらに,中絶経験者は未経験者と比較して性に関して大らかな考えを持ち,性の生理的側面や男女の性役割に関する信念を持つ者が多かった。この結果には,時代による避妊法の可用性,性交頻度が配偶者の有無と強く関連すること,中絶経験は長期的な精神的不調と関連しないことが関係している可能性がある。これらの知見は,希望しない妊娠の予防や中絶を希望する人々の心身の健康を守るケアの発展に貢献すると考える。(著者抄録)